「最近、人の名前が出てこない。物忘れが増えた気がする。将来の認知症が心配…」
年齢とともに気になる物忘れ。加齢によるものが多い一方で、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が認知機能の低下や認知症のリスクに関わることが、近年の研究で報告されています。
実際に、無呼吸のある人は軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症に若い段階から移行しやすく、CPAP治療でその進行が遅れたとする報告もあります。この記事では、その関係と、今からできることを整理します。
そもそも「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に空気の通り道(気道)がふさがって、呼吸が止まる・浅くなることをくり返す病気です。多くは大きないびきを伴いますが、本人は眠っているため気づきにくく、一人暮らしや寝室が別だと指摘してくれる人もいません。
いびきを指摘されたことがある、あるいは日中の強い眠気があるなら、この病気が背景にあるかもしれません。
次のような特徴のある人は、いびき・睡眠時無呼吸を起こしやすいとされています。あくまで傾向であり、当てはまらなくても起こることがあります。
- 太っている・首が短く太い
- あごが小さい・後退している
- 扁桃腺が大きい
- 鼻づまりがあり口呼吸になりやすい
- 日常的にお酒を飲む・喫煙している
- 加齢、閉経後の女性
物忘れ・認知機能低下の原因はさまざま
物忘れといっても、原因は一つではありません。まずは全体像を押さえましょう。
- 加齢による物忘れ:誰にでも起こる。ヒントで思い出せることが多い
- 睡眠の質の低下:睡眠不足・無呼吸で記憶の整理がうまくいかない
- 軽度認知障害(MCI)・認知症:体験そのものを忘れる、日常に支障が出る
- その他:うつ、甲状腺機能の低下、薬の影響、ビタミン不足など(治療で戻るものもある)
見逃されやすいのが「睡眠の質」です。睡眠は日中に得た記憶を脳に定着させる大切な時間。睡眠時無呼吸で眠りが何度も分断されると、この記憶の整理がうまく働かず、物忘れとして表面化することがあります。
なぜ睡眠時無呼吸が脳・記憶に影響するのか
仕組みは主に2つの経路で説明されています。どちらも脳の働きにじわじわと影響するとされています。
① 夜間のくり返す低酸素
無呼吸で血中の酸素が繰り返し下がると、酸素を大量に使う脳がダメージを受けやすくなります。低酸素はアルツハイマー型認知症に関わるとされる「アミロイドβ」というタンパク質の蓄積を増やす可能性が指摘されています。
② 睡眠の分断で記憶が定着しない
深い睡眠中に、脳は日中の記憶を整理・定着させ、老廃物を洗い流すとされています。無呼吸で睡眠が細切れになると、この働きが妨げられ、記憶力や集中力の低下につながると考えられています。
重要なのは、無呼吸を治療すると認知機能が改善したとする報告があることです。ある研究では、CPAP使用者は未治療者に比べて軽度認知障害の発症が数年〜約10年遅かったとも報告されています。「睡眠の質を整える」ことは、将来の認知症予防の観点からも意味があります。
こんな場合は睡眠時無呼吸を疑う
次のような点が複数当てはまる場合、いびき・睡眠時無呼吸が背景にある可能性があります。
- いびきを指摘される/大きないびきの自覚がある
- 眠っているときに呼吸が止まっていると言われたことがある
- 日中に強い眠気があり、集中力・判断力が落ちている
- 朝起きたとき頭が痛い・すっきりしない
- 熟睡感がなく、何度も目が覚める
- 物忘れに加えて、日中の眠気や疲労感が強い
- 肥満気味・首が短く太いと言われる
とくに「物忘れ+大きないびき+日中の強い眠気」がそろう場合、睡眠の質の低下が背景にある可能性があります。加齢だけと決めつけず、一度確認しておくと安心です。
他の原因と見分け方
物忘れの背景には、無呼吸以外にも「治療で改善するもの」を含めさまざまな原因があります。
| 考えられる他の原因 | 特徴・ヒント |
|---|---|
| 加齢によるもの | ヒントで思い出せる、日常生活は問題なく送れる |
| 軽度認知障害・認知症 | 体験自体を忘れる、同じことを何度も聞く、日常に支障。早めに専門外来へ |
| うつ・強いストレス | 気分の落ち込み・意欲低下を伴う。集中できず物忘れが増える |
| 甲状腺機能の低下 | だるさ・むくみ・寒がりを伴うことがある。血液検査でわかる |
| 薬・飲酒の影響 | 睡眠薬・飲酒などが影響することがある。主治医に相談 |
| ビタミン不足など | 偏った食事が続く場合など。治療で改善することがある |
日常生活に支障が出るほどの物忘れや、同じことを何度も繰り返すなどがあれば、まずもの忘れ外来・脳神経内科での相談を優先してください。無呼吸の確認はそれと並行して行えます。
今日からできる対策・セルフケア
認知症そのものの治療は専門外来が中心ですが、睡眠の質を整えることは、脳の健康を守るうえで誰にとっても大切です。
横向きで寝て、いびき・無呼吸を減らす
仰向けは気道がふさがりやすい姿勢。横向き寝は無呼吸を減らし、夜間の低酸素と睡眠の分断をやわらげます。
十分な睡眠時間と規則正しいリズム
記憶の定着には深い睡眠が欠かせません。就寝・起床の時間を一定にし、寝る前のスマホ・カフェイン・飲酒をひかえましょう。
体重・生活習慣を見直す
肥満は無呼吸の大きな要因。適度な運動やバランスの良い食事は、無呼吸にも脳の健康にもプラスに働くとされています。
人との交流・適度な運動を保つ
会話や運動は脳への良い刺激になります。睡眠の改善とあわせて、日中の活動量を保つことも予防の観点で大切です。
睡眠時無呼吸かも?検査と治療の流れ
セルフケアで改善しない、いびきや無呼吸の指摘がある場合は、検査で調べることができます。
- セルフチェック:まずは無料のセルフチェックやいびき度チェックで、リスクの目安を確認します。
- 自宅の簡易検査:疑わしければ、指や鼻にセンサーを付けて一晩眠るだけの簡易検査(保険適用・自宅でできる)を受けます。
- 精密検査(必要な場合):さらに詳しく調べる場合は、一泊の精密検査(PSG)を行うこともあります。
- 治療:重症度に応じてCPAP(鼻マスクで気道を広げる)やマウスピース、生活改善などを選びます。
2026年6月の改定で、CPAPの保険適用基準が緩和され、以前より受けやすくなりました。検査も自宅でできる簡易検査から始められるため、ハードルは高くありません。詳しくはCPAPとは?仕組み・効果・費用、治療全体はいびきの治し方 完全ガイドにまとめています。
受診の目安・何科に行けばいい?
日常生活に支障が出る物忘れ・認知症が心配な場合は、もの忘れ外来・脳神経内科・精神科での相談が中心です。いびきや日中の強い眠気を伴い無呼吸が疑われる場合は、睡眠外来・呼吸器内科・耳鼻咽喉科で検査ができます。まずは無呼吸のリスクをセルフチェックで確認しておくと、相談先を整理しやすくなります。
放っておくとどうなる?
睡眠時無呼吸による睡眠の質の低下は、日々の物忘れや集中力の低下だけでなく、長期的には認知機能や認知症リスクに関わるとされています。逆に言えば、睡眠を整えることは将来への投資でもあります。無呼吸は高血圧・心疾患・脳卒中とも関わるため、「物忘れ=年のせい」と片付けず、睡眠の質という視点から見直すことに意味があります。
睡眠時無呼吸を放置した場合に高まるとされる主なリスクには、次のようなものがあります。
- 高血圧(とくに薬が効きにくい治療抵抗性高血圧)
- 心疾患・不整脈(心房細動・心不全・夜間の負担)
- 脳卒中のリスク上昇
- 糖尿病・血糖コントロールの悪化
- 日中の眠気による事故(居眠り運転など)
たとえば、こんなパターン
60代・男性のケース:「最近、人の名前が出てこない、約束を忘れるといったことが増えた。認知症の始まりかと不安になった。振り返ると、何年も前から大きないびきがあり、日中は強い眠気で居眠りをすることも多かった」——加齢による物忘れと決めつける前に、睡眠の質という視点を持つことが大切だと分かるケースです。
もちろん、日常生活に支障が出るほどの物忘れや、同じことを何度も繰り返すなどがあれば、まずはもの忘れ外来・脳神経内科での相談を優先してください。そのうえで、いびきや日中の眠気を伴う場合は、無呼吸の確認を並行して行うと安心です。
今からできる、脳を守る睡眠習慣
認知症は一日で進むものではなく、長い年月をかけて少しずつ進行するとされています。だからこそ、今から睡眠の質を整えることには意味があります。横向き寝でいびき・無呼吸を減らす、就寝・起床の時間を一定にする、深い睡眠を妨げる就寝前の飲酒・スマホを控える——こうした習慣は、日々の記憶力だけでなく、将来の脳の健康への投資でもあります。
とくに、いびきや無呼吸がある場合は、その治療自体が認知機能の改善や認知症リスクの低減につながる可能性が報告されています。「物忘れ=年のせい」と諦めず、睡眠という切り口から見直してみましょう。
まとめ
物忘れの多くは加齢によるものですが、睡眠時無呼吸による夜間の低酸素と睡眠の分断が、記憶力の低下や将来の認知症リスクに関わることが報告されています。無呼吸の治療で認知機能が改善したとする報告もあり、睡眠の質を整えることは予防の観点でも重要です。物忘れに加えていびき・日中の眠気があるなら、一度セルフチェックで確認してみましょう。日常に支障が出る物忘れは、もの忘れ外来の受診を優先してください。
Q. 物忘れと睡眠時無呼吸は関係ありますか?
関係することがあります。無呼吸で睡眠が分断されると、日中の記憶を脳に定着させる働きが妨げられ、物忘れや集中力低下として現れることがあります。夜間のくり返す低酸素が脳に影響し、長期的には認知症リスクにも関わるとされています。
Q. 無呼吸を治療すると認知症は予防できますか?
予防を保証するものではありませんが、無呼吸の治療(CPAPなど)で認知機能が改善したとする報告や、軽度認知障害・アルツハイマー病の発症が遅れたとする報告があります。睡眠の質を整えることは脳の健康に良い影響が期待できます。
Q. ただの加齢による物忘れとの見分け方は?
加齢による物忘れは「ヒントで思い出せる」「日常生活は普通に送れる」のが特徴です。一方、体験そのものを忘れる・同じことを何度も聞く・日常に支障が出る場合は、もの忘れ外来での相談を優先してください。いびきや日中の眠気を伴う場合は無呼吸の確認もおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。同じ症状でも他の病気が背景にあることがあり、原因や必要な検査は人により異なります。気になる症状が続く場合は自己判断せず、医療機関を受診してください。記載の数値・割合は各種公開情報にもとづく目安です。
